一億円のさようなら  白石一文

             

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ドラマに合わせて読み始めたけど、けっこうな大冊でドラマが終わるまでに何とか読み終われました←遅読

主人公加能鉄平が、妻の夏代が48億円もの遺産の持ち主であると知った事をきっかけに家族との関係を見直すストーリーで、妻との過去を振り返るシーンが挟まれます。
ジャンルで言えば家族小説という事になるんだろうけど、今まで読んだことがないタイプの小説だったので読み始めはだいぶ戸惑いました。

夏代は大金を実際に持ってみて使い道を考えようと、一億円の現金を鉄平に残しいなくなります。楽しむことをまず一番に考える夏代と、今後の生活設計を考える鉄平、性格の違いが現れてます。
夏代が遺産のことを言わなかったの、分かる気がするんですよね…これだけの大金があると、何をするにもそれが前提になってしまって、普通の生活が送れなくなる気がします。
前半はこれでもかと鉄平を困難が襲い、妻のこと、子供たちのことに加え、会社でも大きな問題がおき、とうとう会社を辞めることになります。ドラマではクビになってたけど、原作では自分から辞めてます。

全てを捨てて単身金沢に引っ越した鉄平は新事業を始めるのですが、それが今までの自分の仕事とはかけ離れた海苔巻き屋だというのが面白いです。でも、経営の才覚がある鉄平はここでも大成功します。
鉄平はかつての同僚や夏代からもう一度福岡に戻ってやり直すことを懇願されるけれど、新事業が軌道に乗っている彼がどんな選択をするのか…というのが後半の読みどころです。

ラストの夏代の驚くべき行動、したたかな女性と言うこともできるけど、遺産の事は忘れて過ごそうとしていた彼女が、最後に愛する人を取り戻すために最もいい遺産の使い方をしたんじゃないかなと思います。鉄平には考えも付かないような大胆な発想と行動力、ラストの鉄平の言葉もうなずけます。

二転三転する見事なストーリー運びだったと思うけど、鉄平の高校時代のエピソードだけはいらなかったんじゃないかと。
いざとなったら驚くべき行動に出ることもある人、というのを補完するためだったのかもですが、これはやり過ぎでは。鉄平にはそぐわないような気がしてなりませんでした。ドラマでは宅磨の名前は出てきたけれど、あっけらかんと話す鉄平に、ああ、このエピソードは変更されている、と思って安心しました。

あと、福岡と金沢という2つの街について、実在の店や地名を挙げながら描かれていて、福岡によく行っていた自分にはリアル感がありました。
出てくる食べ物もそれぞれ美味しそうで、海苔巻き屋のメニューの多さも、地元のチェーン店のお寿司屋でよく買っていた海苔巻きを思い出して食べたくなりました。

原作のエピソードが今後どのようにドラマで描かれるのか楽しみです。

怪奇大作戦ミステリー・ファイル  小林弘利

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BSプレミアムでの再放送を楽しんで観ていて、ノベライズがあるということを知って読んでみました。

元々NHK放送のドラマですが、生理的にぞわぞわ来るようなグロ表現や、原初的な恐怖を誘発するようなモチーフの数々はNHKとは思えないほどです。そこが怪奇大作戦らしいところなのでしょうが。

 

常識では解決できない不可解な犯罪を捜査するSRI(特殊科学捜査研究所)を舞台に、SRIの頭脳牧史郎を中心に、怪奇な事件を科学の力で解明します。

牧は心に闇を抱えていて、それは犯罪への興味が募るあまり、自分が犯罪者に踏み込んでしまう境界線にいるという事です。小説でも同じではあるのですが、小説の牧はもう一つの闇の要因「青い箱」を持っています。

青い箱の中身は牧のモノローグで仄めかされているので予想がつきますが、その中身をどうするかという事も彼を悩ませています。ただ、中身への思いが彼の研究の原動力でもあり、現在の彼を形作っていると言ってもいいかも知れません。

そんな闇落ち寸前の危うい牧が、実際に境界線を踏み越えてしまった科学者や科学を使える人間たちの犯罪に立ち向かいながら、自分の内面とも向き合う、それが見所でもあります。

 

4つの話のうちの2つは、大切な人の病気を治すまたは甦らせたいというのが犯罪の理由で、そのためもの悲しい雰囲気が感じられる作品になっています。

1つはある手段を使って新しい世界を作ろうとする目的。

しかし最後の「深淵を覗く者」は様々なことが曖昧でそれはドラマも同様です。

犯人が様々に繰り出してくる犯罪の手口は牧を魅了し、深淵に引きずり込もうとします。

「怪物と戦う者は、その過程で 自分自身も怪物になることのないよう気をつけなくてはならない。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」

とは、ニーチェの言葉。要するにミイラ取りがミイラになることのないようにということなのでしょう。

深淵を覗く牧はどうなるのか、また青い箱に対してどのような選択をするのか…。

「深淵を覗く者」はドラマの4編の中でも屈指の名作とされていますが、科学サスペンスとしてというより、牧の苦悩がよく描かれているからではないかと思っています。

 

牧はコーヒーに砂糖を3つも入れる甘党のコーヒー好きで、高いエスプレッソマシンでコーヒーを入れて味わうシーンがドラマでも小説でも頻繁に出てきます。

陰惨な事件が続く中で、牧のコーヒーのシーンは本人同様ホッと息がつけるシーンです。また、変わり者として有名な牧もSRIの中にはちゃんと居場所があるようで、メンバーとの心温まるやり取りもあります。

 

ドラマ以上にグロいシーンもありますが、牧についてもっとよく分かる内容になっているので、ドラマファン、牧ファンの人には一読の価値ありです。

 

最後の証人 柚月裕子

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ずいぶん前にドラマを先に観ていたけれど、原作を読んだ後で改めてドラマも観直し、視点が違う事に気づきました。

ドラマは事件の動機と実施方法が伏せられていて、それが焦点になっていますが、原作では法廷で当然明らかになるべきある事がミスリードされる描き方になっています。

公判3日目になってそれが明らかにされた時には、自分が全く違う方向に引っ張られていた事が分かり、愕然とさせられるのです。

ドラマの内容をほとんど忘れていたので見事に騙されました。

 

作者がドラマ化の際に言っていたように、普通なら映像化は難しいと思われるけれど、そこが、視点の違いでしょう。

原作で伏せられていた事実は初めから分かっていて先ほど書いたように動機が徐々に明らかになるようなストーリーになっています。

原作では被害者夫婦が子供を亡くした悲しみが、繰り返し描かれていて、こういう行動に出ないとならなかった理由が胸が痛くなるほど伝わって来ます。

 

佐方の信条「罪はまっとうに裁かれなければならない」

それに従って、全ての原因だった7年前の事件について解明して行くのですが、助手の小坂が言うように

「しかし、まっとうに裁くということは、事件の裏側にある悲しみ、苦しみ、葛藤、すべてを把握していなければ出来ない事なのではないか」

佐方はそれを精一杯把握しようと努めています。

また、その真っ直ぐ過ぎるほどの思いが、彼が検事をやめて弁護士になった出来事に関わっています。

 

事件を見る方向が違うという事で、原作もドラマもそれぞれ楽しめるけれど、驚くべきミスリードのある原作を、ミステリーとして高く評価したいと思いました。

狂骨の夢(電子版第3巻) 京極夏彦

電子版1巻、2巻を読み終わるのに2ヶ月もかかったのに、解決編に当たる3巻はあっという間に読み終わりました。

京極堂がどのように憑き物落とし(解決)をするのかワクワクだったし、今までバラバラだった多くの事件のモチーフがどのように繋がるのか興味津々でした。


「この世には不思議な事など何もないのだよ」という京極堂の決め台詞の通り、夢としか思えないような奇怪な出来事に、きちんと理由付けがされ、事件と結び付いていく京極堂の憑き物落としはいつもながら鮮やかでした。


五百年前や千五百年前の宗教的な蘊蓄を延々と語り出した時には、いったいこの話はどこに決着するのだろうと不安になったけれど、それも回り回って事件に繋がります。

事件関係者の妄執としか思えない行動に、宗教って怖いなと改めて思わされました。

この小説の発表時期って、ちょうど例のカルト教団の事件の頃なんですよね。京極さんも意識しておられた可能性もあるなと思いました。


朱美の正体については予想通りでしたが、まさかのそれを上回る事実がありましたね。

朱美と伊佐間とのラストシーン、何だか好きだったので2人が上手くいくといいなと思いました。


全体的に不気味なイメージが先行するので、明るく傍若無人な榎木津のキャラがありがたかったです。

特殊能力は特に発揮していなかった気もしますが(^^;


通して読むのに時間がかかり過ぎたので、最初の方を忘れたりしてたけど、志水アキさんの漫画に助けられました。原作の再現率が素晴らしいんですよね。

キャラクターもイメージ通りで、本の世界と同様に入っていけます。漫画の解決編は読まずに、原作を先に読み終わったので、これから漫画の方も最後まで読むつもりです。


久々の京極さん、久々の百鬼夜行シリーズでしたが、戻って来て正解でした。

 

狂骨の夢(電子版第2巻) 京極夏彦

ようやく2巻を読み終わりました😅

ブロ友さんの、読んでも読んでも終わらないよ、という忠告の通りでしたが、京極さんの文章は読みやすく、読んでいる時はすらすら読めました。単に私が読書時間を捻出できなかっただけです。

 

ここまでの所で、京極堂が憑き物落としをするだけの材料が揃ったようです。読者にとってはバラバラのモチーフが揃っただけのような気がしますが…

でも京極堂によれば、全ての事件には繋がりがあるようです。これからどんな風に繋がっていくのか、京極堂の謎解きが楽しみです。

久しぶりに読んで、榎木津のキャラについてだいぶ忘れてしまっていましたが、こんな傍若無人で探偵として無能なキャラでしたっけ?

でも人にはない能力を持っているので、これからそれが発揮されるのかも。

関口は相変わらず揺らぎのあるキャラで、その危うさが関口らしくていいです😊

さて、いつ頃読みおわれるか…

狂骨の夢(電子版第1巻)京極夏彦

                          

百鬼夜行シリーズにひさびさの復帰です。

いくら何でも前のシリーズ過ぎるだろう、とのツッコミはおありでしようけど、この本の分厚さに恐れをなして、シリーズから離れてしまったんです(^^;

でも、いつかシリーズに復帰したいとずっと思っていて、電子図書なら重さも厚さも感じないし、外で読む事もできるので読み始めましたが、電子図書でも三分冊でやっぱり長い(゚ロ゚)(当たり前)

で、いつになったら読み終わるのか分からないので、とりあえず、1冊めを読み終わったところで感想をUPすることにしました。

 

朱美は、行ったこともない場所の記憶を持ち、しかも前の夫を繰り返し殺した記憶に苛まれていました。

朱美と偶然関わることになった人々は、朱美に関心をもち、事件はやがて京極堂の元に…

 

話は朱美を中心に様々な場面に繋がり、全容が見えない謎が謎を呼ぶ展開は、このシリーズらしいなあと懐かしくなりました。

 

そして、京極堂、榎木津、関口、木場らお馴染みの人物がだんだんと登場して来ると、懐かしさは頂点に✨

京極堂の蘊蓄、榎木津の根拠のない自信、不安定な関口、活躍の場がなく自分を持て余す木場、そして相変わらず可愛らしく聡明な京極堂の妹敦子。

彼らの今後の活躍を楽しみにしながら第2巻へ。

いけない 道尾秀介

                         

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アンソロジー蝦蟇倉市事件1に収録の「弓投げの崖を見てはいけない」を元にした一編から構想を膨らませたミステリです。

各編とも、ラストに載っている写真で真相が分かるようになっています…と言いたいところですが、自分がとんちきなせいか、よく分からないのもありました^_^;

 

「弓投げの崖を見てはいけない」

アンソロジー所収のものとは変わっている所が多かったですが、ラストに車に跳ねられた人物は同じだと思います。

ヒントが前より分かりやすくなっている気がします。

 

「その話を聞かせてはいけない」

写真を見るまではよく分かっていませんでした。超自然的な話かと思っていました。

もう一度読み直したいです。

 

「絵の謎に気づいてはいけない」

嫌な話だなあ><

ラストの竹梨のモノローグには背筋が寒くなる思いでした。

でもミステリ的によくできてる話だと思います。

事件の絵の違いが実に効果的でした。

 

「街の平和を信じてはいけない」

結局様々な事件は、犯人達が告白したいと思っているにも関わらず、明らかになることがなく、物悲しい雰囲気と、ラストの作ったような爽やかさが違和感をもたらしたまま物語は終わります。

 

ブラックな展開と、技巧的なミステリが融合した、道尾さんらしい作品だと感じました。