クライマーズ・ハイ  監督 原田眞人

1985年、群馬県御巣鷹山(正確には高天原山)で起きた日本航空123便墜落事故をめぐる、地元新聞記者の戦いを描いた作品です。

原型をとどめない機体、崩れた斜面、奇跡的に救助される少女…。
それが私のこの事件についての記憶です。それ以外の詳しいことはほとんど知らずにいました。ですが、この映画を見て、ネットでこの事故についての記事を読み直し、歴史に残る大惨事だったことを改めて感じました。

北関東新聞社で、遊軍記者として勤務する悠木は、日航機墜落事故の全権デスクに指名されます。
地元新聞にとって、飛行機が落ちたのが長野県側か群馬県側かで大きな違いがあるというのは、そう言われればそうだなと思うのですが、最初は場所の特定がなかなかできなかったためみんながやきもきするシーンが、素人にとっては違和感を感じるところでした。
事件の重大性に違いはないのに、新聞社にとってはそうではないんですね。

社会部の県警キャップである佐山はすぐに地域報道班の神沢とともに事故現場に向かいます。ぼろぼろになって山に登り、会社の方針で無線もなく、やっとのことで記事を新聞社に送った佐山ですが、その記事は印刷時間の都合で落とされてしまいます。社に帰ってからその事実を知った佐山が、刺すような目で悠木をにらみつけ、激しい剣幕で非難する様子に圧倒されます。日頃穏やかな表情、優しい声と物腰の堺雅人さんの、打って変わった演技が印象的です。

佐山の記事を落とさざるを得なかったことに無念さを感じていた悠木は、佐山の記事をそれからの一面トップに持って来ようとしますが、社長の思惑でそれさえ実現できません。自衛隊員が亡くなった少女を抱える様子を書いた佐山の記事に、悠木たちと同様私も胸を打たれました。

それにしても、新聞の編集局というのはあんなに熾烈な場所なのでしょうか。一刻を争う騒然とした雰囲気、深夜までの激務…。それに加え、紙面の取り合い、上司からの圧力、同僚の嫉妬など、社内の軋轢の激しさには驚きます。
記事に口出しする社長や、局長、次長、部長とどの人も長年この仕事をやってきただけの迫力があり、悠木と対立するもどちらも一歩も引かない構えです。特に、遠藤憲一演じる社会部長とのやりとりはまさに火花を散らす感じです。

後半は飛び込んできた事故の原因についてのスクープを一面に載せるかどうかということに焦点が当てられます。「100%の裏付けのない記事は掲載しない」ということを、「チェック・ダブルチェック」という言葉で信条としている悠木がどう決断するのか…。
この「チェック・ダブルチェック」ってどんな仕事にも必要なことですね。私も明日からつぶやきそうです。

編集局での様子と並行して、数年後、亡くなった?同僚安西の息子と登山をする様子が描かれます。息子との不和に悩んでいた悠木が、登山をする中で和解の糸口を見つけること、そして、ひたすら登ることだけを考える様子を人生になぞらえているということは分かりました。
ですが、編集局の骨太なドラマと、この登山シーンが交互に出てくることにとても違和感を感じました。
クライマーズ・ハイ」とタイトルにあるように、この登山シーンに意味があることは分かるのですが…。原作は未読なので、この重要性が今ひとつ伝わってきませんでした。

ラスト、海外に息子を訪ねるシーンは原作にあるのでしょうか。悠木の辞表もその後どうなったのかよく分からないままでした。
編集局でのシーンが素晴らしいだけに、残念な気がしました。

NHKでドラマ化された「クライマーズ・ハイ」の評判が映画以上に良いようですね。こちらは佐藤浩市さんが悠木を演じています。堤さんの悠木とどんな風に違うのか、見てみたいと思っています。