復讐の協奏曲  中山七里

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11月に新作が出ていることに気づかず、慌てて読み始めたお気に入りの御子柴シリーズ、遅読の私が3日で読み終わりました。これほど夢中になって読めるシリーズもなかなかないなあと。電子書籍なので読んだパーセンテージが出るのですが、「え、もう80%?」と読み終わるのが残念でした。

冷徹で有能な御子柴弁護士は、中学生の時に犯した重大事件を背負って生きています。それが彼が弁護を請け負う事件にも関わって来ることも多いのですが、今回もそうです。
ブログを通じて扇動された者たちからの御子柴への大量の懲戒請求と、事務所のたった一人の事務員の洋子にかけられた殺人容疑、御子柴襲撃事件、と複数の事件が積み重なってきます。

今まで前に出ることがなかった日下部洋子がクローズアップされたのは意外でした。確かに、御子柴の犯罪歴を知っている洋子がそれでもなぜ御子柴の元にいるのかというのは不思議に思っていました。
でも実は洋子の正体はプロローグで分かってしまうのですが、それでも彼女の人生や思いが気になって読み進めてしまいます。

今回はクスッとさせられるシーンもいくつかありました。
老獪な元弁護士会会長の谷崎を「腹の黒いタヌキ爺」と心の中で思いながら年季の違いで敵わない様子、谷崎から洋子の代役として紹介された宝来弁護士とのやり取り、そして何と言っても御子柴のウィークポイントの倫子。
倫子ももう11才とは大きくなったものです。御子柴をやり込めるこまっしゃくれた物言いが微笑ましく、御子柴がペースを乱される様子が楽しいです。
シリーズが進むごとにだんだんと御子柴の人間らしい側面が見えて来るようになりましたが、倫子といる時にそれが最も表出するように思います。

洋子の事件の物証であるナイフの指紋トリック、なるほど、でした。注意深く読めば犯人を推理できそうですが、私は気づかなかったのが残念。
今までのような度肝を抜かれる展開はないものの、物証を用意しての鮮やかな弁舌には、洋子同様安定の信頼感が。
このシリーズに惹かれるのは、法廷物としての読み応え、そして何よりも御子柴という人間に魅力を否応なく感じさせられてしまうという事です。

それにしても最も御子柴と一緒にいる洋子、やはり御子柴の側面も目にしているのだなあと。それを面と向かって言われた御子柴、これからウィークポイントが2人に増えそうですね。

いや~本作も面白かった!早くも次作が待ち遠しいです。前のシリーズも久し振りに読み直したいです。