正体 染井為人

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一家三人殺害で少年死刑囚の鏑木慶一は、脱獄して世間を騒がす。本人は名前と顔を変えながら日本中を転々とする。様々な職に就きそこで出会った人々を助け、癒していく。

彼は実際に事件を起こしたのか?そしてこれから何をしようとしているのか?

 

wowowで亀梨君主演でドラマ化され、3月から放送開始。

終わりの方にネタバレありますので、未読の方はご注意を。

 

鏑木を亀ちゃんが演じている事から、「妖怪人間ベム」を連想しました。ベムも正体を隠して行く先々で出会った人間を救います。正体がばれるとまた別の町へ。

ベムたちは、あれだけ人間たちに忌み嫌われながら、出会った人々への温かい視線を忘れません。鏑木もそれは同じ。そして困った人々に積極的に手を差し伸べ行動します。

 

妖怪人間ベムでも、彼の正体を知っても味方になってくれるわずかな人間がいて、それが彼の支えになってくれますが、鏑木に助けられた人々の一部も彼の優しさに触れ、正体を知っても思いを変えずにいてくれます。

 

鏑木という人物がとても魅力的に描かれ、各章のエピソードも心温まるものです。

否応なしに読む側も鏑木に惹かれていきます。

しかし、生田斗真瑛太共演の映画「友罪」(原作 薬丸岳 読了)もそうでした。瑛太の演じる鈴木はとても「いい奴」で益田の親友になるのですが、実は彼はかつて世間を震撼させた少年犯罪者でした。こちらは実際に犯罪を犯していて、過去の犯罪の更生と現在との関わりが焦点となるのですが、「正体」は事実は終盤まで明らかにされません。

でも、間違いなく一部の登場人物と多くの読者を味方につけながら物語は進んでいきます。

ここからネタバレです。

 

 

 

 

 

 

 

 

作者の染井さんがあとがきで鏑木を死なせた事を謝っておられますが、冤罪の悲惨さを世に知らしめるためだとしても、そのために鏑木がスケープゴートにされた気がしてならないのです。

鏑木は常に自分よりも他人の事を思って行動していて、そんな美しい彼の心が報われてほしかった!と心から思いました。もちろん、世の中そんな綺麗ごとばかりではないでしょう。でも鏑木には生きていてほしかったです。しかも、警察が失態を隠すために彼を殺したとしたら、あまりにも彼の運命は過酷ではありませんか。

ずっと温かい気持ちで読んできただけに、ここだけは残念でした。

ドラマではぜひ、鏑木が助かる方向に変更されている事を願っています。

 

でも、弁護士の渡辺が中心となって、鏑木に助けられた人々が彼の冤罪を晴らそうと尽力し、実現したラストにはホッとしました。ここで助けられたメンバーに弁護士がいる事が生きてくるのですね。

 

初読みの作家さんでしたが、一つ一つのエピソードが読み応えがあり人間もよく描けていて他の作品もまた読んでみたいと思いました。