からくりからくさ  梨木香歩

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祖母の残した古い家に集う女性4人と、彼女たちの中心にある人形のりかさんとが織りなす日々を描いています。

「家守綺譚」ですっかり梨木さんの世界にはまった私ですが、この夏、梨木さんの作品を一冊は読みたいと思っていました。
梨木さんの作品には、縁側で風鈴の音を聞きながら涼むような日本的な情趣が感じられます。この作品も同様です。
別作品である「りかさん」を読まずに本作を読んでしまいましたが、時系列ではそちらの方が先なので、「りかさん」を先に読んだ方がよりこの物語がよく分かるのではないでしょうか。

祖母の家に管理人として住む蓉子は、染色の仕事をしています。織糸を買いに来ていた、織物の勉強をしている大学生の紀久と与希子、鍼灸の勉強をしているマーガレットが下宿人として一緒に住むことになります。
そして、蓉子の市松人形であるりかさん。蓉子はりかさんと心を通じ合わせることができます。りかさんは心を持つ人形なのです。

物作りをする人への憧れがあります。芸術それ自体よりも、それに情熱を傾ける人に以前から関心を持っていました。そういう気持ちを持てる人、そして実際に作品を作り出すことができるということをうらやましく思います。
染色や織物についての話も興味深く読みました。
彼女たちをつなぎ合わせているものの一つは物作りにかける思いだと感じます。

機を織る音を音楽のように聴き、庭に生えた草を摘んで食卓にのせる質素で充実した、結界に守られたような日々。前半はそうした4人のバランスのとれた生活について語られます。
始めは下宿人の中では違和感をもって迎えられたりかさんも、しだいに受け入れられ、4人にとってなくてはならないものになっていきます。4人をつなぐもう一つの存在はりかさんだと思います。

後半になると、4人の中に波紋を起こすような出来事がいくつも起きてきます。
それでも、物作りとりかさんに支えられた4人の絆は切れずに保たれます。

ラストの、三人展直前の事件はとてつもなくショックなことだと思うのに、それを作品の完成、昇華だととらえるのは芸術家ならではの考え方でしょうか。
りかさんの縁を辿った旅が、最後にここまでつながっているということにも驚かされました。

挟まれる神崎のトルコからの手紙は、「村田エフェンディ滞土録」を思い出させます。梨木さんにとってトルコは特別の地なのでしょうね。

人生を壮大な織物に例えた終わり方は、始めの密やかな生活が醸し出す雰囲気とはずいぶん異なりますが、ラストまでの紆余曲折を辿っていくと、そういう思いも抱かずにはいられません。
前半のゆったりと紡がれる4人の生活、後半の思いがけない劇的な展開と、織り糸を変えたような違う色合いのストーリーが楽しめる作品でした。