追憶の夜想曲  中山七里

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御子柴礼司シリーズ二作目です。非常に優れた弁護士である一方、暗すぎる過去を抱えている、主人公としても弁護士としても異色のキャラクターです。

いきなり御子柴の過去に関わる描写から始まり、それがインパクト大なのですが、これを描く事で現在の御子柴との対比がより鮮明になると感じました。

前作の最後に怪我を負い、3ヶ月の入院を余儀なくされた御子柴ですが、無事復帰。
ある事件に興味を示します。それは、妻が夫を殺した事件で,被告の津田亜季子は最初から罪を認めて、地裁の判決は懲役16年でした。弁護士が量刑不当として控訴していたのですが、御子柴は弁護士を脅して辞任させ、自分が引き継ぎます。財産があるわけでもない一般家庭の事件であり、たとえ減刑に成功するとしても,今までの御子柴であれば引き受ける事のない事件でした。なぜ御子柴はこの事件を引き受けたのでしょうか?

調べる中で明らかになる夫のDVや負債。夫の父親が亜季子を擁護した事などから、亜季子に有利な展開になると見えましたが、裁判の行方は?
ミステリーとしては、ある登場人物についての描写が意図的に少ないことや、途中で意味ありげに挟み込まれるモノローグで、仕掛けに気づいてしまいました。
そこは残念だったのですが、一番の謎である、「御子柴はなぜこの事件を引き受けたのか」については、まさかという思いでした。御子柴が○○のためにここまでするとは…。

感情をあらわにする事なく、非情なまでに論理的に弁舌を振るう御子柴ですが、内面では実は大きく感情が揺れ動いているのだと感じさせられました。彼の過去に関わる事件が、現在の彼を作り上げ、そして行動を決定しているのですね。
それは、彼にとって今まで築き上げたキャリアを捨てても良いと思うほどの強い思いなのでしょう。

事件の背景は悲惨で、関係する登場人物も最悪なのですが、その中で唯一微笑ましい気持ちにさせてくれるのが、亜季子の次女倫子です。御子柴が邪険にするのにも構わず、懐いてまとわりつきます。
いつの間にか,御子柴も倫子のペースに巻き込まれているのが面白いです。そして、最後には人間同士として倫子に言葉を残します。この言葉、このシリーズを象徴するようで深いです。

岬洋介シリーズを読んでないのですが、名字で検事が洋介の家族かな?と思いましたが、お父さんなのですね。法曹界に進んでほしかったのに音楽家の道に進んだということで親子断絶中なのだとか。熱血漢というキャラは御子柴とは対照的です。法廷での御子柴との対決はさすがの読み応えでした。

次作「恩讐の鎮魂曲」でも、御子柴の動向から目が離せません。すっかりお気に入りのシリーズになりました。