あの空の下で  吉田修一

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ANAの機内誌「翼の王国」に連載されていた小説&エッセイをまとめたものです。
めったに乗らない飛行機ですが、ANAに乗った時は、必ずこの「翼の王国」を読みます。写真が美しく、記事も旅空で読むのにふさわしい、センスのよいものが並びます。
連載は2007~2008で、この間JALにしか乗っていなかった私は、吉田さんの作品を雑誌で読むことはありませんでした。でも、他の方のブログでこの本のことを知り、とても読みたくなりました。古本屋で見つけた時は嬉しかったです^^

12の短編と6つのエッセイがあり、短編には映画のタイトルがつけられています。映画のシチュエーションをふまえつつ、旅の風景と人々の日常の風景が流れていく、という感じの作品です。
エッセイは吉田さんの海外旅行でのことが書かれています。読んでいて、これも小説じゃないの…?と錯覚させるような美しい文章で綴られています。
特に好きな作品について…。

恋する惑星
映画も好きなんです。特に、後半のトニー・レオンの話がいいです。好きになった警官のアパートに忍び混んで、「夢のカリフォルニア」をかけながら掃除をする女の子の楽しそうな様子が忘れられません。だから、この話を読みながら、頭の中には「夢のカリフォルニア」が流れてました。
11才年下の彼とつき合いながら、年齢のことで引け目を感じている主人公。いつも真剣に生きてきたという彼女が、一緒に行った香港旅行で彼の真剣さに触れてとまどう様子が微笑ましいです^^

ベスト・フレンズ・ウェディング
いつも誰かに頼って生きてきた主人公が、友達の結婚式をきっかけに、自分の足で踏み出して行こうとします。ささやかな冒険ではあるけれど、彼女の成長を感じさせる終わり方がさわやかです。

「流されて」
今まで、非現実的な男の人とばかりつき合ってきた主人公が、初めて地に足がついた男性尚也と出会い、結婚します。彼女はハネムーン先のマレーシアの孤島で、2人のことについて回想します。
空の青さを本当の意味で表現できる人と出会った、その幸福感が伝わってくるようです。

エッセイではホーチミンでの話が好きです。
同じ電話ボックスで雨宿りした言葉の通じない2人が交わした「雨」というわずかな言葉。
ビーチでの激しいスコールの中、銀色にきらめく若者達の背中の美しさ。雨についてのイメージがとても喚起されるエッセイです。

モノクロの写真とイラストが入っていますが、雑誌掲載時はカラーだったのでしょうか。
やはり旅先で読むというのがより良いですね。でも、自宅の居間で読んでいても、ふっと旅空に心を飛ばすことができるような、そんな作品集でした^^