儚い羊たちの祝宴  米澤穂信

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旧家や財閥の屋敷の中で起こる密やかな殺人や事件を描いています。
背景にあるのは選ばれた者であるという意識であり、家名やプライドを守るためなら殺人でさえ大したことではなく、奥深い屋敷の中で、その犯罪も覆い隠されていく…というのがこの物語のテーマのように思います。

令嬢や使用人による上品な語り口が、さらに恐怖感を高めています。
旧家での殺人ということから、横溝正史を思い浮かべますが、横溝作品から土俗的な香りを除いた感じでしょうか。ただ、横溝作品では血縁関係の愛憎が色濃いですが、この作品では人間関係は妙に希薄な感じがします。

それぞれの作品をつないでいるのが「バベルの会」という読書会です。ミニ社交界としての意味もある良家の子女の集まりであり、物語の中で重要な役割を果たしています。

「身内に不幸がありまして」
毎年身内の死という不幸に見舞われる丹山家の秘密とは?
寝室の秘密の部屋に隠された数々の本は、表に出ることのない犯罪の象徴のようにも感じます。この殺人の理由には唖然としました。人の命って何なのでしょうね?

「北の館の殺人」
六綱家の非嫡出子であるあまりは、北の館に閉じこめられた男の世話をすることになります。男があまりに買ってくるように頼んだ品物の意味は。
それまでの雰囲気が反転するようなラストの展開が効果的な作品です。

「山荘秘聞」
人が訪れることのない山荘の管理をする使用人の屋島は、ある日山で遭難して大怪我をした男を助けます。男を捜して救助隊がやってくるのですが…。
これは動機については予想がつきますが、もうひとひねりあるところがお見事です。すっかり騙されました^^;

「玉野五十鈴の誉れ」
「Story Seller」に載っていてとても印象に残った作品です。
旧家の娘として生まれた純香と、その使用人である五十鈴。純香の運命の変化によって2人の絆は…。
非常にブラックな展開なのですが、読者を納得させるものであることが怖いですね。

「儚い羊たちの晩餐」
超一流の料理を作る厨嬢に命じて作らせた料理の謎とは。
羊ってその羊ですか…。これに出てくる、料理についての作品は家にあるので読み直してみようと思います。
それにしてもこの材料の使い方は、この本に出てくる退廃さの象徴のようですね。
バベルの会の崩壊と再生がこういう形で描かれることに驚きです。また新しい物語がここから始まるのではないか…という予感も感じさせる終わり方でした。

どれも読み応えのある作品ばかりでした。あちこちに他の作家の作品名が出てくるのも読書好きの心をくすぐりますね。今まで読んだ米澤さんの作品で一番のお気に入りになりました^^