ゴールデン・フリース  ロバート・J・ソウヤー

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宇宙旅行都市計画の一環として、47光年離れた惑星コルキスをめざす宇宙船「アルゴ」。アルゴを統御しているコンピュータ「イアソン」は、科学者のダイアナを死に追いやります。いったい何のために?ダイアナの元夫アーロンは、彼女の死に疑問を抱き調査を始めます。

題名、「アルゴ」、「イアソン」「コルキス」という名前に、これはギリシア神話を下敷きにしているのだなと気づきました。金の羊毛(ゴールデン・フリース)を持って帰れば、王位を譲ると言われて旅に出た先王の息子イアソンの冒険の話です。この物語における金の羊毛とは何なのかということはラスト近くで明らかにされます。

いきなり犯行現場から始まり、犯人も明らかにされる倒叙ミステリSFです。イアソンはこの宇宙船の中では全能であり、自分の都合の良いように事実をねじ曲げるのも思いのままです。嘘だってついてしまいます。また、このまま旅を続けるか、それとも地球に戻るかいう住民投票の結果でさえ変更してしまいます。この行動の理由も、ダイアナ事件とつながっているのです。

物語はずっと犯人であるイアソンの視点で語られます。「アーロンは3分21秒の間、口を閉ざした」とか、人間の感情の揺れを遠隔検診器で知るなど、コンピュータらしい描写がユニークです。
しかし、感情の現れにくいアーロンのことをイアソンは把握し切れず、アーロンの内面を知るために驚くべき手段を取ります。その奇想が発表当時問題になったみたいですが、私は単純に面白いと思いました^^その過程で出てくるQ&Aも変で笑えます(笑)

この事件と並行して、子狐座の惑星から送られてきたメッセージ信号を解読する過程が語られます。これは何のための伏線なのか、エピローグまで分かりません。私は最初エピローグの前で話が終わりかと思って、メッセージの話は何だったんだ…と思ってました^^;

この物語が読みやすいのは妙に人間的なコンピュータに加えて、アーロンと今の彼女であるキーステンの関係、イアソンが探り出したアーロンのトラウマのことなど、心理面がリアルに描かれているからでしょう。アーロンを説得するための手段として使うなんて、コンピュータとは思えないですね…^^;

それにしても動機が明らかになった時はびっくりしました~。こうしてみると、取った手段こそ短絡的だけど、イアソンの使命感も分かるなあ…と。アーロンとの口論を見ても、どちらが正しいのか…と思ってしまいます。

この本で出てくる「バサード・ラムジェット」って実際に提唱されてる宇宙船の推進システムだそうです。実在の科学をさりげなく取り入れていることがリアルさを増してますね。

とにかくSFとしてもミステリとしても面白いし、ユーモアも感じられる作品です。最後まで楽しく読めること請け合いです^^