逆ソクラテス  伊坂幸太郎

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伊坂さんには珍しい、小学生の群像劇の連作短編集です。
学生に付き物の悩みを取り上げながら、思いもよらない方法で伊坂さんらしく解決していくのが胸がすく思いです。

タイトル作の「逆ソクラテス」一番好きな話です。
担任教師の態度によってクラスで低位に置かれた草壁に自信を持たせ、担任や周りの見る目を変えるための作戦は思わぬ効果を生みます。
野球繋がりもあって、伊坂さんの「ポテチ」を思い出しました。爽快感も共通しています。

次に好きなのは「アンスポーツマンライク」
バスケットボールのチームメンバーの5人が、試合以外の場で文字通りの連携プレーを決める、これもスカッとする話です。
ラストの「逆ワシントン」に出てくる後日談は、「逆ソクラテス」同様の気持ちの良さと胸に来る感慨があります。

このミスでは脅威に対抗する物語と書かれていたけど、そういう側面もあるにはあるけど、それだけでまとめられてしまうのはもったいないです。
小学生の頃にしかない空気感を再現する筆力、よく子供が主人公の物語を書かれる道尾さんとはまた雰囲気が違うけれど(道尾さんの方がよりノスタルジックな感じ)さすがだと感じました。
子供時代に戻りたいとは全く思わないけれど、たしかにキラキラした瞬間はあったはずで、「スロウではない」にもあったように「あの頃にはもはや戻れないのだ」という郷愁、それが大人になってしまった自分の心の奥底を刺激してきます。
でもその一方で、大人になったかつての子供たちの活躍も描いてくれるのが伊坂さんらしいです。

ゴッド・ファーザーに出てくるやり取り、トランスフォーマーなど、伊坂さんのお好きなモチーフが用いられているのが楽しく、効果的に使われているのも良かったです。