重力ピエロ  監督 森淳一

街に描かれる謎のグラフィティアートと、その近くで起きる放火事件。それに巻き込まれる兄弟と、家族の絆を描いた作品です。
「人間を決定するのは遺伝か環境か?」とても重いテーマなのですが、原作はそれを空中ブランコのように軽やかに描いてみせます。映画でもその雰囲気が出せているかが気になりました。

微妙にネタバレしてると思うので、原作未読の方はご注意^^;



まずキャスティングが素晴らしいです。兄の泉水に加瀬亮さん、弟の春に岡田将生さん、父親に小日向文世さん、母親に鈴木京香さん。原作の雰囲気通りでした。
一番大事なのは父親だと思うんですよね。母親が巻き込まれた事件とその結果で大きな決断を迫られたわけですが、迷うことなく選んだ道、そして終生揺るぎない信条。父親としての大きさと温かさを感じさせる役どころを、小日向さんは見事に演じていたと思います。

原作でも父親から春が本当の事を知らされたという設定になっていて、映画でははっきりと告知をする場面があります。本当は、知らさずにずっと行ければ、それが一番良いことなのは間違いありません。ですが、街のかなりの人がこの事件について知り、陰口や当てこすりを言ってくる状況で、隠し通せることはないと判断したのでしょう。そして父親の「俺たちは最強の家族だ」という気負いのない言葉は、ずいぶんと春や泉水を支えたでしょう。
でもやはり春にとっては、けじめをつける必要があったのですね。ああしなければ春は壊れてしまったでしょうから。泉水に気づいてもらいたいだけの春のあの行動、隠された暗号は常軌を逸しています。どんな時にも一緒だった兄に精神的にとても依存していることが伝わってきます。
岡田将生さんは、心の中に爆発寸前の思いを抱えながら、家族の前ではそれを表さないようにする難しい役をうまく演じていたと思います。
すべてが終わった後、父親が春を責めずに、「お前は俺に似て嘘が下手だ」と言ってとても嬉しそうな顔をします。ああ、この人達は本当の家族なんだな、と心から思わされました。

加瀬さんはいつも空気みたいにその役や映画の雰囲気に溶け込んでいますね。「それでもボクはやってない」でも思いましたが、良い意味で役者ぽくないというか、隣にいる人が映画に出てる、そんな感じがします。

葛城役の渡部篤郎さんは、原作でも最悪のイヤな人間を、これ以上ないほどイヤな感じに演じていました^^; ラスト、春や泉水のこれからの行動については「どうしようかな~」という感じで曖昧にされていましたが、あれだけイヤな人間だと、見る方も罪の意識というものを感じにくいですよね^^;

実は、このDVDを見る前に、「ラッシュライフ」を見たのですが、そちらは残念なできでした…。堺雅人さんは存在感あって良かったのですが。「重力ピエロ」にも黒澤は出てくるはずですが、映画の興信所の人は黒澤じゃないでしょうね。

最初に春が二階から落ちてきて、最後にまた二階から落ちてくる。でもそれは軽やかに重力を感じさせないジャンプです。 春の心の中にあった重しが取り払われたようで、爽やかな気持ちになりました。
原作ファンの人にもおすすめです^^