光媒の花  道尾秀介

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人間の心の奥底を描いた連作短編集です。前の話の登場人物があとの話では主人公になっていたり、ちらりと顔をのぞかせたりしています。
表紙がとても美しいので、つい手に取りたくなる本です。

「隠れ鬼」
印章店の店主は、認知症になった母親が描いた笹の絵を見て、過去の暗い記憶を呼び覚まされます。
笹からのイメージの広げ方が巧いです。内容は、松本清張原作で映画化もされたある話を思い出しました。

「虫送り」
河原の草むらで虫取りをしていた兄と妹は、ホームレスの男に声をかけられます。そして妹の身に起こったことから、兄妹は殺意を…。
この話だけだと単に嫌な読後感を残すだけの展開なのですが、あとのいくつかの話が本作にリンクしていて、読むと納得します。

「冬の蝶」
昆虫が好きだった少年は、虫取りに来た河原で同じクラスの少女に出会い、だんだんと少女に惹かれるようになります。
これも何とも救いのない話です。袋を使った比喩は巧いと思ったのですが、もう少し明るい要素はないのでしょうか…。

「春の蝶」
主人公の隣に住む老人の部屋に空き巣が入り、貯めていたお金を盗まれてしまいます。その時にいた孫娘は耳が聞こえないため犯人に気づかなかったのですが…。
言葉にこだわる道尾さんらしさが出た作品です。予想通りの展開ではありましたが、明るい終わり方にホッとさせられます。

「風媒花」
入院した姉を見舞った主人公は、母と不仲である理由を姉に問いただされますが、答えることができません。
植物や生き物などのモチーフの使い方が巧いですね~。また、風媒花、虫媒花をこういう比喩として使うとは…さすがです。あっけらかんとしたラストも○です^^

「遠い光」
主人公が担任しているクラスの朝代は、母親の再婚で名字が変わったばかり。ある日朝代が老人の家の猫に石を投げるという事件を起こします。
特に大きな出来事があるわけではないのですが、主人公と朝代の心情を丁寧に追った展開に好感が持てます。蝶のシーンが表紙のイメージと重なり、美しいです。

どの作品の登場人物も、不幸な過去を背負ったりつらい現在の中にあって、蝶や、カナブンや、赤とんぼのように、生きていくために必死に光を探しているのだと感じさせられました。
ラスト二編が好きでした。始めの救いのない物語から、だんだんと明るく希望に満ちた物語へとつながっていく構成は良かったと思います。