シャムロック・ティー  キアラン・カーソン

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桜庭一樹さんが絶賛しているキアラン・カーソンという作家さんに、以前から関心を持っていました。「琥珀捕り」と「シャムロック・ティー」どちらも素敵な装丁で、各章のタイトルも何とも魅力的。まず本作から読んでみることにしました。

シャムロックとは、クローバーやカタバミなど、葉が3枚に分かれている植物の総称です。
表紙にもシャムロックの葉が描かれています。
舞台になっているアイルランドでは、聖パトリックが「シャムロックの葉が3つに分かれているのは『三位一体』を表している」と語り、それが元なのかアイルランドの国花になっているそうです。

まず各章には色を表す言葉がつけられています。「パリスグリーン」「ドラゴンの血」「ギャラハーのブルー」など、想像をかき立てられます。
全部で101のタイトルが並び、各章は3ページほど。物語はタイトルの色だけでなく、様々な色彩であふれています。始めは断片的で、1つ1つの話につながりがあるようには見えません。しかし、パッチワークの断片が次第につながり、大きなタペストリーになるように、全体を通しての物語が見えてきます。

メインのストーリーは、シャムロック・ティーという煙草を吸った少年と少女が、絵の中に入るという不思議な体験をし、その後寄宿学校で出会った本でその秘密に気づくというものです。

物語の重要なキーワードは、画家であるヤン・ファン・エイク、彼の描いた「アルノルフィーニ夫妻の肖像」です。物語の前にこの絵がちゃんと挟み込まれています。これは、文字通り、世界の扉を開く鍵となります。
これに加え、コナン・ドイルシャーロック・ホームズ、ブラウン神父、オスカー・ワイルドメーテルリンクウィトゲンシュタインなど、現実の存在も、虚構の存在も織り交ぜて登場し、物語を彩ります。関係があるかは分かりませんが、主人公の従妹ベレニスの名前も、ポオの短編のタイトルになっていますね。

気になるのは、日付が出て来るたびに「この日は聖○○の祝日」と、守護聖人の名前とその聖人が何を守護しているのか必ず語られることです。これは、あとの解説でも出てきますが、この物語がローマ・カトリック典礼暦が使われている世界だからです。ネットでも調べてみたのですが、「聖人カレンダー」というものが存在し、その日の守護聖人が一目で分かる一覧表になってます。こういう世界は全く知らなかったので興味深かったです。
ちなみに、本作によると私の誕生日は平和の守護者聖イレネと、御者の守護聖人リカルドゥスだそうです。
時にはメインのストーリーとは関わりなく、聖人について語って終わる章もあって、ほんとに好きなように書いてるなという感じです(笑)

そして、謎の存在シャムロック・ティー。特別な作用のあるこの葉は、登場人物と読者を魔術的な物語世界に連れて行ってくれます。
それにしてもこういう展開になるとは…古典の雰囲気をまといながら、実はとても新しい物語なのかも。

あなたもシャムロック・ティーを吸って、今までに読んだことのないこの不思議な物語に迷い込んでみませんか?





これは独特の感触の本でしたね。本好きにはたまらない内容でした。贅沢で、物語がいっぱい詰まっていて、興味深くて。 削除

2013/7/9(火) 午前 6:59 beck 返信する
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>ベックさん
それぞれの章が1つの物語として機能していて、無限の広がりを見せる感じでしたね。
読書の醍醐味ってこういう本のことなんだろうなあと思いました。
琥珀捕り」も期待大です^^ 削除

2013/7/9(火) 午後 8:39 ねこりん 返信する
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短い章立てがうまい具合に連携しながら飛躍していてとても面白い作品でしたね。自分としては「琥珀捕り」のほうがより好きな作品なので、是非楽しんでください。 削除

2013/7/19(金) 午後 2:13 [ テラ ] 返信する
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>テラさん
こういう作品って、他にない感じですよね。驚きました。
テラさんは「琥珀捕り」がおすすめなのですね^^
桜庭さんもとても好きな作品だということなので、楽しみです。 削除

2013/7/19(金) 午後 8:20 ねこりん 返信する