ノックス・マシン  法月綸太郎

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本格ミステリとSFとの融合ということで、大森さんイチ押しの作品です。その時点でかなりマニアックな印象を受けましたが、その通りでした。

「ノックス・マシン」
古典ミステリの愛読者なら知っている「ノックスの十戒」。
私も知ってましたし、その中の第5項「探偵小説には、中国人を登場させてはならない」だけ何だか浮いた感じだと思ってました。
文学を数理的に解析する研究において、「ノックスの十戒」をテーマに選んだユアンは、タイムトラベルが双方向で成功(行って、戻ってこれる)することと、ノックスの十戒に関わりがあるという発見を証明することになります。
量子力学の理論は難解で、煙に巻かれたような気がしますが、オチは読めてしまう単純さです。
ノックス自身についてはよく知らなかったので、そんな高位の聖職者だったとは驚きでした。

「引き立て役倶楽部の陰謀」
一番気に入った作品がこれです。
名探偵のワトスン役で構成された「引き立て役倶楽部」が、アガサ・クリスティの有名作に、ワトスン役の活躍の場がないことから、クリスティへの陰謀を計画します。
ワトスン本人(強硬派の酔っぱらいオヤジとして登場^^;)を始め、様々な探偵小説の「引き立て役」達が登場します。
アクロイド殺し」と「そして誰もいなくなった」が当時物議を醸した点について、ワトスン役の立場から議論しているのが面白いです。
ポワロの相棒ヘイスティングズも登場し、苦境に立たされた彼はどうするのか?も読みどころです。

「バベルの牢獄」
意識がデータ化されて牢獄に閉じこめられた男の脱出劇です。
これも理論はさっぱりなのですが、簡単に言えば、電子書籍よりやっぱり紙の本がいいよ、ってことでしょうか^^;(簡略化しすぎ?)

「論理蒸発―ノックス・マシン2」
タイトル作の続編です。
データ化された書籍の中で熱量が暴走し、21世紀の焚書騒動が起こります。
ブラッドベリの「華氏451度」、クイーンの国名シリーズをモチーフに、量子力学で味付けした作品です。ミステリというより、サスペンス仕立てで、スピード感があります。
クイーンファンにはおすすめです。国名シリーズは読んでないものもありますが、いくつか読んでいるだけでも楽しく読めると思います。

でも、「ノックスマシン1・2」を読むと、「ノックスの十戒」の第4項「未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない」に抵触しないの?という気もしますが^^;

量子力学をそぎ落としていくと(SFじゃなくなりますが)、あとには古典ミステリや本そのものへの限りない愛情が残る…そんな作品集だと思いました。