冬虫夏草  梨木香歩

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好きな本を3冊挙げてと言われたら、その中に入る前作「家守綺譚」その続編です。

前作、本作とも、明治時代、亡くなった友人の家の管理を任された、駆け出しの物書きである綿貫が、家や周辺で出会う不思議なもの達との関わりを綴った作品です。日記なので、章ごとの改ページがなく、すぐ続けて次の章が始まるのがそれらしい雰囲気です。
各章には植物の名前のタイトルがつけられています。中には知らない植物もあるので、それを検索しながら読むのも楽しいです。

この世にいない人や人ではないもの達が、自然に日常生活に溶け込んでいるのが、この物語の世界です。
亡くなった友人の高堂は、掛け軸の絵を通して、綿貫の元に現れます。河童と話し、天狗が飛ぶのを見、龍神と出会い…そのゆるゆるとした交流は、「夏目友人帳」の世界とも通じるところがあります。

本作が前と違うのは、「ショウジョウバカマ」の章から、いなくなった犬のゴローを探す旅日記になっていることです。
非常に賢く、人望厚いゴローはあらゆるものから頼りにされる、まさに「できた犬」です。しかしある日行方知れずに。綿貫はゴローを見かけたという便りを元に、ゴローを探す旅に出ます。

旅にはもう1つ目的があって、それはイワナの夫婦がやっている宿を訪れることです。ゴローのことが気になっているのに、同じくらいイワナの宿のことが気になる綿貫が面白いです。

頻繁に登場する菌類学者南川は、南方熊楠がモデルなのでしょうか?綿貫もあきらめているその変人ぶりは何だかユーモラスな雰囲気さえあります。
南川の出番が多いのと、旅日記ということもあって、高堂の出番が少ないのがちょっと残念です。旅先にも来てくれることはあるのですが…。

四季折々の自然や、日本らしい情趣の美しい表現に加え、民俗学的な味わいもあって、不思議が不思議でないこの世界にすっかりひたってしまいます。

ラスト近くに出てきた竜の洞とアマゴの宿についての話、気になります。もしまた続編があるなら、ぜひこれについての冒険譚を読んでみたいです。