忍びの国  和田竜

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最強の伊賀忍者と称される無門と、織田信雄(のぶかつ)率いる織田軍との戦い(天正伊賀の乱)を描いた物語です。血で血を洗う戦国の物語…ではあるのですが、実はラブストーリーが主軸に置かれているとは思いませんでした。

「その腕、絶人の域」と呼ばれる忍びながら、怠け者で、働きに出てもさっさと帰りたがる無門。彼を家で待つのは、地方の侍大将の家からさらってきたお国です。その美しさで噂になっていた娘を自分のものにしようと忍び込んだものの、自慢の幻惑術もなぜかお国には効かず(笑)そこで無理強いするどころか、普通に口説き落としにかかり、とうとうプロポーズまでする始末です(笑)
年に四十貫文稼がないと、正式に夫婦にはならないとお国に言われ、少ない稼ぎを持って帰っては、お国の顔色をうかがう日々。こんな怖い奥さん、何で一緒にいるの?と思いますが、もう心底惚れちゃってるんでしょうね。
彼の望みは、機嫌の良いお国と気楽に暮らすということだけなのです。
こんな無門ですが、ひとたび戦いに赴けば向かうところ敵なしなのがかっこいいのです。
無門の使う技の数々には感動すら覚えます。

かっこいいと言えば織田方の武将日置大膳です。5人でないと引けないという強弓を軽々と引く猛将です。かつての主であった北畠具教を殺す事を拒み、武士としての道理を通す、まさに男の中の男という感じです。伊賀忍者達も、彼の存在を認め、恐れています。

伊賀忍者下山平兵衛も印象的なキャラです。人の命の大切さを知る、忍者の中では変人扱いされる彼は、弟を無門に殺されたことから伊賀を出て織田方に付き、無門と伊賀への復讐を誓います。無門に匹敵する強さである彼と無門との一騎打ちは迫力です。

また、信雄についても、信長という例えようもないほど偉大な父を持ち、自分に父のようなカリスマ性も実力もなく、年上の家臣達に見下される苦悩を吐露するシーンには悲哀を感じました。

十二家評定衆に代表される、人を人とも思わない伊賀忍者の生き方と、それに反発し人間らしく生きようとする者たち、その対立が描かれている事が物語を深みのあるものにしていると感じました。
無門は人の死に心動かされない伊賀忍者らしい忍者でしたが、お国と心を通じ合わせる中で、人間らしさを取り戻していったように思います。だから始めは全く理解できなかった平兵衛のことも、理解できるようになったのですね。

スピード感あふれる戦闘シーン、魅力的なキャラクター、丁寧に描かれた心情、と、三拍子揃っていて、実に映画化向きの作品ですが、この度映画化され、現在撮影中です。
無門は嵐の大野智くん。日頃バラエティで見せる姿と、ステージでの姿のギャップは、無門に通じるものがあると思います。時代物の舞台を長年やっていた彼は、殺陣やアクションにも定評があるので忍者という役はぴったりだと思います。どんな無門を見せてくれるのか楽しみです。