ミステリークロック貴志祐介

防犯探偵榎本シリーズの最新作です。4編のうち、2編はすでにドラマ化済みです。哀川翔さんと藤木直人さんのぶんですね。

貴志さんのインタビューを読みましたが、ドラマ版を気に入って下さっていて、大野くんの榎本径も適役だと感じておられるようです。ドラマの榎本と、原作の榎本はだいぶタイプが違いますが。

このシリーズの好きなところは、ミステリアスな防犯探偵榎本と、彼と一緒に事件の調査に当たる、弁護士の青砥純子の掛け合いです。

純子がトンデモ推理を披露して、それを榎本が頭を抱えながら聞き、その後榎本がそれをひっくり返す過程が面白いです。

もちろん本作でもそれは健在で、純子は榎本からトンデモ推理のトンちゃん、と呼ばれるくらいです。

でも、前作までにあった軽妙で洒落た雰囲気というのがあまりないのが残念です。
特に、タイトル作と、『鏡の国の殺人』はトリックが難解で、しかもトリックに次ぐトリックという感じなので、読んでいて疲れます。事件が解決すると同時に話も終わってしまうので、ちょっと息をつく後日談もありません。

四編の中では『コロッサスの鉤爪』が好きでした。沖縄の海が舞台で、珍しくバカンスモードの榎本が見れます。海、魚、釣りと、もしかして、大野くんに合わせてくれたのかな？と思ってしまいます。

それでは、各編ごとの感想を。

『ゆるやかな自殺』
厳重過ぎるほど施錠された暴力団事務所の１室で、下っぱの男が拳銃を口に向けて発射して亡くなっているのが見つかります。ドアを解錠することを依頼された榎本は、イヤイヤながら事件解決にも関わることに…。
ドラマと違うのは、亡くなった八田の娘は登場せず、代わりに組長の娘が出てきます。殺伐とした事件の中で、ドラマ版では八田の小学生の娘と、榎本との関わりがいい雰囲気を出していたので、それがなかったのは残念でした。
榎本が終始及び腰で、早く帰りたがってるのは面白かったです。
トリックは4編の中で１番分かりやすいですね。

『鏡の国の殺人』
ある美術館の館長が殺害されます。｢鏡の国のアリス｣をテーマにした展示が行われていて、その展示は複数の防犯カメラに撮影され、中を通って館長室へ行くことは不可能だと思われました。一方、榎本は館長の依頼で美術館の屋根から侵入し、その姿は防犯カメラに映されていました。このままでは、榎本が犯人にされてしまいます。

貴志さんもドラマ版のセットの位置関係を参考にされたということでしたが、ドラマを観てなかったら自分にはさっぱりだったでしょう。それほど専門的で複雑なトリックが使われています。
純子がいつものように次々に自説を披露して、榎本に覆されていますが、これだけ考えるだけでもすごいと思います。貴志さんも、純子はちゃんと事件解決に役立っているとおっしゃっていました。

『ミステリークロック』
携帯の電波も届かないような山奥の屋敷に人気ミステリー作家森怜子の関係者が集められます。
そこで、滅多に見られない、豪奢な置き時計のコレクションの値段当てクイズなどのイベントが行われるのですが、そんな中怜子が亡くなっているのが発見されます。
怜子の夫時実は1時間後までに犯人を明らかにし射殺すると宣言します。
このトリックにはほんとお手上げでした。説明されてもよく分からず…純子もよく分かってないようだったのでホッとしましたが。
十分、ドラマ化できる長さがあるとおもうので、ぜひお願いします！

『コロッサスの鉤爪』
ボートで釣りをしていた潜水員が、何か尖った大きなものにボートを突き上げられ、しかも水中に引き込まれて亡くなります。体に残った傷跡や、監視カメラの映像を見ると、彼は巨大なイカに襲われたように見えました。
真相は？
外で起きた事件なのに、密室だというのがユニークですね。
サメやイカの種類に興味持ち過ぎの榎本に笑いました。やっぱり大野くんの影響でしょうか。でも、もともと生き物系の番組観るのが好きなんでしたっけ。
何度失敗しても挫けない純子のメンタルに、ついに榎本も脱帽ですか(笑)
このあたり、元の軽妙さが戻って来てて嬉しいです。
ただ、この事件もかなりの専門知識が必要で、一般人には推理は難しいのが残念です。

そう言えば｢密室は破れました｣という、ドラマの決め台詞も随所で使われてました。
こういう遊びは嬉しいですね。

あと、純子はもう完全に榎本の本職は泥棒だと決めてかかっていて、それに関連した、心の中でのツッコミが笑えます。
貴志さんは、これから榎本の過去や弱点も書いてみたいそうです。ドラマの榎本の弱点は恋愛でしたが、原作ではどうなるのでしょう。

貴志さんは、まだまだトリックのアイデアをお持ちだそうなので、今後が楽しみです。