笑うハーレキン  道尾秀介

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ホームレス生活を送る家具職人の東口の元に、助手にしてほしいという女性奈々恵が現れ、ホームレス仲間と共に、生活するようになります。
やがて仲間の1人が亡くなり、東口たちも事件に巻き込まれることに。

印象としては、「カラスの親指」に似ています。過去に重い物を抱えている人々が一緒に暮らすようになり、協力して物事に取り組み、そのうちに秘密がだんだんと明らかになるという流れです。協力したことが、「カラス~」はコンゲーム、本作は家具修理ですね。

ただ「カラス~」ではキャラの性格のおかげで何となくのんびりとゆるい雰囲気も漂っていましたが、本作ではみんなで楽しく過ごしていても、ホームレスの厳しい現実と悲哀が背後に見え隠れしていて、どこかもの悲しさを感じます。

東口が見る疫病神の幻影、会社の倒産と共に出て行った妻、亡くなった息子のビデオを繰り返し見ていること…何よりも東口が抱えていることがつらいです。
これが、タイトルの「ハーレキン(道化師)」につながっていたのですね。道尾さんらしい仕掛けにはいつもながら驚かされます。

謎の家具修理については、他の事件と違い法に触れることをさせているわけではないのに、目隠しして現場に連れて行ったり、泊まり込みで作業させたり、かえって怪しさを強調している感じです。普通に修理を頼んで、普通に帰ってもらっても問題ないように思うのですが。
でも、この事件を通して、仲間達が働くことの喜びを感じて生き生きとしている様子は、読んでいて嬉しくなりました。

「(生きていくのに仮面を被ることは必要だけれど)どうせ素顔を覆うなら、笑顔で覆った方がいい」
と気づく東口のモノローグが心に残ります。

最後に、東口が今後の人生の計画を話すところがとても好きです。今まで暗かった東口の人生に温かい光が差し込んだようで、二人同様、私も目頭が熱くなってしまいました。その見通しの通りになってほしいです。

明らかになっていないこともあるし、東口と奈々恵、仲間たちのその後も知りたいので、続編があるといいなあと思います。